本記事は本題にあるベンチャー経営における採用活動について語るものです。一般的な人材の採用ではなく、会社の核となる高度専門性のある人材の獲得についてです。
私の経験則ですが、ベンチャー企業は採用市場上では信用力はないものの、働く上での事業領域に魅力を感じやすいものです。新しい産業を作り出していく面や、既存産業をディスラプトしていく面に社会的意義も感じやすいのでしょう。
着目したいのは、ベンチャー企業への参画は、職能観点でも魅力がある、ということです。
私は、過去に日系グローバルメーカー等いわゆる大手企業との組織作り案件をご一緒したこともありますが、大きな組織の細分化、 というのは本当にあるのです。
国内の多くの企業組織は職能別組織で作られており、その職能の中でも細分化された部や課、チームに分けられます。
企業戦略上では、習熟度を高めたい分野や業務最適化を図りたい分野をくくり、区分けした組織を作ることは合理性があるのですが、個人のキャリアという観点では企業経営の全体像がいつまでも見えず視野狭窄となる恐れもあります。
その点では、まだ小さなスタートアップ段階の仕組み化されていない組織で、職能を問わず広範囲の分野で業務に取り組める構造それ自体に、優位性があると言っても良いでしょう。
ただし、まだ未成熟な組織に参画することへの不安は突然ながらあります。
最も顕著に言われるのは、収入不安、人間関係不安、社会的不安などでしょう。収入が下がる、若い組織内での人間関係構築に難がある、社会や転職市場におけるプレゼンスや価値が下がる。このような不安は、感情的に湧き上がるのは当然だと思いますので、ベンチャー経営側は素直に受け入れて丁寧に説得するしかないでしょう。
少し論点の切り替えとなってしまうかもしれませんが、不安の払拭、という意味でも、自社に参画することにおける職能的価値について、ミクロに話せるようにした方が良いです。
私は元々は広告業界の人間なのですが、例えば広告マーケティングの仕事の求人票を見ると、あまりにざっくりし過ぎているという印象を感じています。求人媒体の事業者にいた際は、品質管理の一環で多くの求人票・求人広告を手直ししたこともありました。
求人票はざっくりしてる要因は、ストレートに言えば、職能素人が書いてあるからです。求人広告を載せる求人媒体や、それを準備するHR事業者側の営業人材、そして社内の人事担当は、職能においては具体的な経験がありません。
そのため、業務内容や必要スキルにおいては微妙なズレが発生します。
MAツールベンダーのマルケト社では、求人票のライティングはCMOの仕事とされていると聞いたことがあります。
人を引き寄せ、魅了し、意思決定を促すという側面では求人票ライティングはマーケティング業務と言っても良いです。
また、ベンチャー領域では私も様々な求人広告のクリエイティブを見ました。
法則があるとすれば、私がよく言語化しているのは、求職者に対して、「今の市場環境や、今後の社会の方向性を考えたときに、このような職能が重要となめキャリア形成ができるポジションにいる」と唱えられた方がいいでしょう。
弊社の支援先で、バベルというベンチャー企業があります。
中国領域の動画プランニングに特化した、データ・ドリブンな広告代理店事業を展開しています。
広告業界人にとっては周知の事実ですが、総合広告代理店はデジタル化が進行しており、アクセンチュアなどのデジタルコンサルティング領域の企業の広告業界参入や、また電通デジタルなど総合代理店のデジタル領域進出が進んでいます。
そして、広告代理店の顧客となるナショナルクライアントも、国内需要の先細りから海外市場開拓を狙っています。
進出市場の1つとしては、消費者人口が多く、日本にも積極的に来日し、日本製プロダクトの消費に慣れている中国人がターゲットです。
このような時代背景において、デジタルの広告プランニングと海外市場の開拓経験はキャリア上も必要となるスキルです。
今後は広告制作や広告配信もデータ・ドリブンになっていく。広告バイイングはマーケターの感性に加え、データやテクノロジーを意識しながら設計をする時代になる。
このような時代背景において、バベルで仕事をすることは価値があるんだ、と私は求職者やパートナーに説得するようにしています。
バベルはまだ立ち上げ段階の会社だからこそ、個人としての職能範囲を広げゆく可能性がある。
競合企業は市場で少なく、今ジョインすることによって市場を作ったと言える経歴を作ることができる。
社会背景、会社の内部、市場環境などを鑑みたときに、今のあなたがジョインするのにベストな環境です、とお伝えするよう意識をしていました。
専門性が高い方であればあるほど、細かい社会的背景から成る、個人としてのキャリアプランニングや、獲得可能な業務スキルを丁寧に話す必要があるでしょう。
私がマーケターとHRをまたぐ観点として興味があるのは、エンプロイエクスペリエンス(EX)です。
これは、マーケターが顧客に対してやっているように、働く従業員に対しても、はじめての接点から面談、そして内定、その後の入社後の活躍までの体験設計を指します。
スタートアップの経営者であれば、株主に対してエクイティストーリー、企業戦略の方向性を示していると思います。
私のようなHR事業者の観点では、もう一歩踏み込んで、その成長戦略のストーリーに沿って働くことで得られるキャリアについても、優秀な人材に対して語って頂きたいです。
ファイナンスの基本的な考えで、DCF法という考えがあります。将来得られるキャッシュフローから現段階の企業価値を算定する手法ですが、私はキャリアにおいても同じことが出来ると考えています。
現在の目の前の価値ではなく、3年、5年、10年と見通した未来の市場環境を考えたときに、今あなたが参画することの価値はこれくらいになる。
DCFは将来キャッシュフローの額が高まるほど、現段階の企業価値も高まりますが、同じように採用においても、将来価値をいかに鮮明に語り、納得感を得られるようにするかが重要です。
Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグは、創業1年目、売上高100万ドル、社員7名のときに、ベンチャーキャピタルのアクセル・パートナーズとはじめての資金調達交渉をしましたが、その際に提示した会社の評価額は9800万ドルです。なんと売上高の約100倍です。
営業利益の数十倍ですら高いと思われることもあるなかで、破格の提示です。
これは、ザッカーバーグがFacebookの将来価値に自信があるからこそ言えたのでしょう。
Facebookの採用の話に移します。
Facebookがこれまで獲得した人材の中で、最も価値があったと評されるのは、紛れもなくシェリル・サンドバーグでしょう。
彼女はGoogleの主要な広告事業開発を牽引した女性であり、シェリルのGoogleで築いた信用とノウハウはFacebookにおいても素晴らしい実績を残しています。
ザッカーバーグは、シェリルとは50時間以上を面談に使ったと聞きます。
Facebookが創業時から大切にしていた広告コンセプト、ユーザーに負担をかけない、邪悪な広告を載せない。その哲学を事業として昇華できるのはシェリルしかいないとザッカーバーグは信じていました。
そのため、シェリルに対して、 Facebookは世界で最もエキサイティングな広告環境であり、情熱を注ぐにふさわしい職場だと本気で口説いたのです。
その結果、シェリルが加入して生まれた画期的な広告商品が、 Facebookのエンゲージメント広告です。(いいねやシェアなどユーザー関与を反映させた広告商品)
シェリル加入後のFacebookが生み出した Facebookの広告サービスは、今やGoogle Ads(旧Googleアドワーズ)と並ぶ二大広告商品となりました。
シェリルとザッカーバーグの関係は、ベンチャー経営におけるパートナーという観点で教訓になる話があります。
実はこの2人は、 Facebookの将来ビジョンについて完全に同じ方向性とは言えなかったようなのです。そこでシェリルも Facebookへの加入をためらう節があったようです。
#参考記事はこちら
不安を感じるシェリルに対し、彼女の夫が語ったセリフを記事より転載します。
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『今問題をうまく解決しようとしなくていい。それは無理だ。君がマークに求めるべきことは、君が将来問題を解決するためのプロセスについての合意だ。問題はこれから変わっていくからだ』
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このセリフを受けて、シェリルは互いに素直なフィードバックを行う習慣を作りました。
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サンドバーグ氏はザッカーバーグ氏に対して、共に働くには、毎週月曜日の初めと金曜日の終わりに互いに率直なフィードバックを行うべきだと伝えた。
ザッカーバーグ氏はその考えに同意し、2人はこれまで9年間共に働く中でその習慣を守ってきた。
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今、目の前で価値観があっていないことを問題としないこと。
その代わり、率直にフィードバックできる関係性を作ること。
シェリルが Facebookに加入するうえで、この約束でとても心が軽くなったようなのです。
私も色々なベンチャー経営者や、プロフェッショナルの人材と話したのですが、全く同じ価値観の人間はいないのです。
面接の場では、これが理由で採用が取りやめになった企業をいくつも見てきました。
しかし、シェリルの話にもあるように、現段階のやり取り、現段階の価値観の相違だけで、全てを決めてはいけないのでは?と思うようになりました。
双方の異なる側面を受け入れながら、コミュニケーション、フィードバックを繰り返すことで、少しずつ、同じ将来の方向性を向いていく。これも1つのパートナーのあり方なのではと。
シェリルは上記のアドバイスをされた夫を後に失っています。彼女が夫の死を乗り越えて得た教訓、困難を乗り越える力は、スタートアップという観点でも共感できるので、ぜひご一読ください。こちらも記事を転載します。
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私が得た教訓のひとつは、苦しみを認めることは、とても強力だということです。
うわべだけの言葉はダメです。
「あなたなら困難を乗り越えられる」もダメ。
なぜなら、あなたも違うと分かっているから。
そうではなく、「不安で、苦しんでいることは分かっている。一緒に乗り越えよう」です。
「認めること」の力、「一緒」の力。
大切なのは、「あなたなら乗り越えられる」ではなく、「一緒に乗り越えていこう」です。
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認める、一緒になる。
他人と協業するうえで、最後に大事なのはこちらなのかもしれません。
当然ながら、違和感はあると思います。
同じ経験をしていない、同じ捉え方もしていないパートナーに対して、起業家は強烈なビジョンや哲学は持っています。
そしてその想いは、やはり100%伝わりきらないのです。
恥ずかしながら、私もそうで、共に働くパートナーやクライアントなどに、自分のビジョンや哲学は伝えきれているとは言いきれていないのが実情です。
しかし、それでも、認めていきながら共に進んでいく覚悟が示せるのかが、重要だと思うのです。
相手の○○さんにとってのキャリア価値をここまで考えている。
会社の考えは、少しズレがあるかもしれない。
でも、そのズレすらも許容し、お互いを認められるパートナーとしてやっていきたいんだ。
本当に共に働きたい相手に対しては、どれだけ相手のことを真剣に考え、折り合わないことも認め合う覚悟が出来ているかが重要である。
この教訓を締めとして、本記事は閉じたいと思います。
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